Projectリノベーション提案

一人で何役もこなすために駆け回る

角谷は独りで、営業・設計・現場監督を兼任している。
最大のメリットは、お客様との会話で生まれたアイディアを即現場に活かせるスピードだろう。 内製化の進んだ平成建設では、監督と設計、営業が全て同じ社内に在籍しているため、担当者同士の打ち合わせは非常にスムーズに行うことができる。 しかしそれでも、さすがに一人で処理するスピードには敵わない。

「角谷さんの場合は、結論が出るまでのタイムラグが全くないんです。何しろ、担当者を集める必要さえありませんから。 図面を広げて提案して、ゴーサインが出るか、駄目出しされるか、一瞬で決まる」
監督兼大工として、角谷と共に多くの現場に携わる小山は言う。
「駄目なら何を改善すればいいのかその場で聞けるし、お客様への確認が必要ならすぐ電話してくれる。 このスピードが、実はきめ細かなサービス、付加価値のある住まいへと繋がるんです。 スピーディに決まるから、僕たちも気づいたことをどんどん提案することができる。お客様の声と職人のアイディアが、重なりあって現場を作り上げていく」

大工製作の格子。
存在感と圧迫感を考慮し、細すぎず太すぎないサイズを慎重に検討。

その一方で、一人で兼任することの最大のデメリットは業務の激化だ。 常に複数の案件を抱えながらの一人三役、まさに八面六臂の奮闘ぶりだが、角谷はそれがこなせるのは自分の力だけではなく、多くの人に支えられているからだと感じている。
「たくさん、色んな人たちに助けられていると感じます。一緒に現場に入ってくれる職人さんたち、設計補助をしてくれる若い設計士、助言やサポートをしてくれるベテラン監督や、必要な書類を作成してくれる事務方のスタッフ、時に無茶なお願いを聞いてくれる業者さん。 みんな、お客様のためにいいものを造ろうと、私に力を貸してくれるんです」
役柄こそ違え、皆「住まい手のための家づくり」を目指す仲間だからだろう。 同じ目標を掲げる仲間たちは、きっと角谷にとってこの上なく心強いはずである。

木の温もりを伝える大工の技

角谷の空間コーディネートに大工が重要な役割を果たし始めたのは昨年のこと。 はじめは試験的に導入していた"大工の技"は、今や空間づくりに欠かせないものとなっている。

「"大工の技"をリフォームに織り込むことは、平成建設の強みを活かしましょうと思って始めたことですが、今や私にとって必要不可欠なものです。 既製品を使って空間をトータルコーディネートするのって、すごく難しいんですよ。 デザインはいいけど素材が……色はいいけどサイズが……って、ぴったり合うものを探す為に時間もかかるし、そもそも見つからないこともある。 それを解決してくれるのが"大工の技"なんです」

"大工の技"を贅沢に使えるメリットは、ただ「思い通りのパーツを造れる」だけに留まらない。
無垢の木だけが持つ手触りや表情、それを活かす大工の技に触れ、出来上がった家具を見ると施主様は大変喜んで下さるという。

「ものを造る時、樹種やデザインや仕様は決まっていても、相手にするのは、二つと同じものがない無垢の木。 だからこそ、木取り(丸太から材を切り出すこと)には大工としてのセンスが求められます。木を美しく見せるにはどうしたらいいか、真剣に向き合うことで少しずつ答えが見えてくる」(小山・談)

「木取りのシーンが大好きなんです。大工さんは木を前にして、長い時間をかけてじっと考えている。そしていざ木取りという段階になると、スパっと一気に切る。 あの瞬間は本当に"匠の技"が輝く瞬間。みんな、とっても格好よく見えます(笑)! そして、喜びを皆で分かち合えるのがいい。 出来上がったものを前にした感動を、お客様と、私と、大工さんをはじめとする職人さんたち、同時に共有できるのがこの仕事の醍醐味です」(角谷・談)

T様邸では和の空間を構成する格子戸と堀炬燵を製作。また、テレビボードやダイニングテーブルも大工の製作家具だ。 格子戸はミリ単位で細さを調整し、最適なバランスを追求した上で床色に合わせて塗装。ブラックウォールナット製の堀炬燵に合わせて、和室の畳はチャコールグレーを採用した。
デザイン、色、サイズ、素材と空間のバランス。
家具や建具までオーダーメイドの家づくりだからこそできる、トータルな空間提案がそこにある。

建具や家具も自社内にて製作。仕上がりを細かく調整していく。写真は大工の小山。

"リフォーム"を超え、"リノベーション(再生)"へ

空間イメージをお客様に伝えることは、実は中々難しい。 照明効果や配色効果は専門知識であり、そのまま提出してもお客様にイメージは伝わらない。だからこそ、どう説明するかが重要になる。
「T様のご希望は『格好いい黒の家』ということで、じゃあ黒をどう見せるか? というところから始めました。 幾ら黒が好きと言っても、床も壁も天井も真っ黒にすればいいというものではないんですね。だからまず、『黒を引き立たせるためには』というところからご提案して」
実際、T様邸の壁紙は黒ではなくオフホワイトを基調としている。これは床や建具の黒を引き立たせるため、敢えて選んだ色だ。

「いきなり白と言っても『えぇ?』と思われるでしょうから、そこは実際に似た空間、ショールームとかインテリア店とか、そういう空間にご一緒して見て貰うんですね。 そうすると、ホワイトを置くことでブラックウォルナットの黒が美しく映える、黒という印象が強くなると理解して頂けるんです」

T様邸には、様々な質感の「黒」が混在している。凹凸のあるもの、滑らかなもの、固いもの、柔らかいもの。 そして、その素材を照らし出す間接照明によって、同じ「黒」でもそれぞれ全く異なる表情を浮かべる。 これらすべて、一つずつサンプルを渡して確認してから決めたのだという。T様との打ち合わせは、概ね週に一度程度の頻度で行っていたが、それは着工後も続いた。

「一度にたくさんの情報を渡してしまうと、お客様は混乱されてしまいます。ですから、必要な時に必要な情報をお渡しすることが重要です。 そしてその過程で少しずつ、新しい暮らし方、ライフスタイルについて考えが変わっていく。 この新しい空間でどう暮らしていくのか、私たちが提案するのはまさにその部分なんです。 壁紙を張り替えたり、キッチンを入れ替えるだけがリフォームの仕事じゃない。そこからさらに踏み込んで新しい暮らし方を提案する、生活の"リノベーション"が私たちの仕事です」

照明、インテリア、プランニング。全てを絡めた空間提案。

T様邸お引渡し後、角谷はうれしい声を頂いたという。
「T様がお引越しの片づけをされていたら、一番最初に打ち合わせした時の図面が出てきたんですって。 それをご覧になったら、最初に僕が伝えたことが全部叶ってるって、改めてお礼を頂きました。 今は、毎日帰るのが楽しいと仰って頂いて、私もすごく嬉しくて。 どの現場も、いいものを造ろうとすればするほど、苦労は増えていきます。でも、お客様の本当に嬉しそうな顔を見てしまうとね」
角谷は笑って、次はもっと頑張ろうと思っちゃうんですよ、と結んだ。