Project新築住宅設計施工

「お客様のための家づくり」を追求する

古材という不定形なものを取り入れるには、事前によく検証しなければ美しく収まらない。 着工後も、角谷は大工の土屋と共に週に一度はお施主様と打ち合わせを行った。 古材は大工の土屋が加工し、その都度お施主様に確認。木の性質を良く知る大工として、様々な提案をさせて頂いた。 特に一番目立つ吹き抜け部分の梁の小屋組みは、平成建設の加工場にて仮組みし、梁の構成、手斧のかけ方などを吟味した上で、実際の現場へ運び、施工した。

また、お施主様が購入された明治から昭和にかけて製作された建具は、現在の住宅基準よりも小さいため、建具に合わせて枠を制作したり建具自体の高さ・幅・仕上げ等を修正して使用した。 こういった一つ一つの工程に手間と時間を惜しまず丁寧に作業が続けられた背景には、「お施主様のためにいいものを造ろう」という設計士・大工共通の認識がある。

実際に施工された梁。

優れた素材を後世に残すために

設計を担当した角谷は「このプロジェクトを通して、古い建材のみが持ちうる魅力と、同時に100年前のものづくりの高邁さを強く感じました」と語る。 U様邸に組み込まれた建具は約100年、古材の梁に至ってはそれ以上の月日を閲している。 しかしそれらは、現在に於いても全く輝きを失っていないどころか、時という要素を加えることで日常品としての枠を超え、一種芸術品のような作品性を帯びているようにさえ思える。

「今回のプロジェクトは古民家を再生させるのではなく、新築住宅に優れた古材を"魅せる素材"として導入した点が重要です。 住宅を"器"として捉え、アンティークの建具や照明と同じように、大工の手によって新しく命を吹き込まれた古材を"意匠"として取り入れています」

構造体としてではなく意匠として扱うことで、古材に新しい価値が生まれる。建材としては無価値だった古材に別の価値がつくことで、次世代へ継承される機会が増える。つまり、古い文化が再生し、次世代へと循環する手助けとなる。

「同時に、過去の優れた造作に触れることで、現代のものづくりについて深く考えさせられた物件でした。今、私たちが造っているものは100年後にもしっかりと使えて、魅力的なデザイン性、普遍的な価値があると言えるでしょうか? そう思われるようなものづくりをしていくことは、我々の重要な課題だと私は考えます。そしてU様邸そのものが、ものづくりに対する一つの答えなのです」

全国から時代を超えて集められた建具、建材。様々な時代、様々な職人達が造ったもので構成されているにもかかわらず、U様邸は、実際にこの空間を体感しないと分からない、不思議な魅力に溢れている。

一見アンティークな造りに見えるが、SE構法によって高い耐震性能を有する。
古材は化粧としてのみ使用し、建物の構造計算には入っていない。

このデザインが「古材を使った住宅のあり方として新しい提案が出来ている」と認められ、U様邸は「大正浪漫邸宅」として2011年度グッドデザイン賞を受賞した。

「グッドデザイン賞審査員の方から『非常に丁寧に仕上げられた作品』『元々のパーツの魅力を十二分に発揮させている』と言って頂けた事は、 内製化によるものづくり、更に設計・デザインに対して高い評価を頂けたという事で、非常に嬉しく思います。 ただ、今回のU様邸は賞に応募するために特別に建築したものではなく、完成してから賞への応募が決まりました。 こちらのお住まいだけが特別という事ではなく、私たちはどの物件に対しても、受賞に値する情熱と思想をもって仕事に取り組んでいます」(設計担当 角谷・談)

「今までも古材を扱う機会はありましたが、「大正浪漫邸宅」が一番規模が大きかったと思います。 構造にはSE構法を採用していたので、SEの特長である耐震性能を損なわずに、如何に美しく魅せるかを研究しました。 お施主様はとても勉強熱心な方で、こちらが用意した写真を見た翌週に、写真に写っている建物に実際に足を運ばれたりされていましたね。 平成建設では、大工が直接お施主様と打ち合わせをする事は珍しい事ではありません。お施主様と現場が密着した、一体となった家造りをしています」(大工担当 土屋・談)

重要なのは「このプロジェクトが特別ではない」と言う事。平成建設のスタッフは皆、お施主様の家造りの為に手間を惜しまず、熱意を持って日々仕事に取り組んでいる。