「ご契約頂けるのは勿論嬉しいです。ただ、楽しく思うのは更にその先にあるもの。重要なのは、建築を通じてどんな事が出来るのかということです。
僕たちが建てる建物によって、街がどんどん変わっていく。これはとても楽しいこと」
営業という職種のやりがいを尋ねると、長野は少し考えてそう言った。
静岡県三島市にある式社・三嶋大社前の土地活用について、長野の下に最初の相談が舞い込んだのは今から3年前の事になる。
「道を挟んで三嶋大社の鳥居が見える、本当にいい立地。交通の便も良く、マンションにしても、駐車場にしても、ちゃんと利益は確保できる場所でした。
でも僕は、店舗を誘致したいと思った」
長野がそう考えた理由は二つある。
まず一つは、店舗に向いている土地は絶対数が少ないという点。
大通りに面した交通量の多い土地か、郊外型店舗のように広大な駐車場を併設できる広い土地でないと、店舗の経営は難しい。
これら条件を満たした土地と出会える機会は滅多にないのだが、当時相談を受けた土地はまさに二方向が道路に面しており、店舗を開くのに申し分ない立地と言えた。
店舗、医院、住宅、マンションと様々なプロジェクトに携わってきた長野にとって、店舗誘致に適した土地の出会いは、非常に重要な機会だった。
そしてもう一つは、長野の胸にあった、かつて宿場町として隆盛を誇った大社前の商店街を、もう少し賑やかにしたいという想いだった。
三嶋大社の歴史は古く、かつては東海道随一の社格として多くの参詣者を集めていた。
今でも参詣者が途絶えることはなく、8月の夏祭には三島市中が大きな活気に溢れる。
しかしその一方で、門前には飲食店や土産物店が少なく、参詣に訪れた客足がそのまま散逸してしまうという状況にあるのも事実だ。
長野の目には、大社前に名物となり得るような店舗を展開することで、客足が止まり地場経済の活性化が果たせるように映った。
三嶋大社を訪れる人にとっては楽しみが増え、三嶋大社そのものの魅力も増すだろう。
計画地には貸駐車場と賃貸ビルが建っていた。門前町としては、やや賑やかさに欠ける印象。
土地活用の面からも、地域振興の面からも、ここには店舗を誘致するべき――そう結論した長野は、まず、出店してくれる企業を探した。
三島という街づくりを第一に考えるならば、全国でチェーン展開しているような企業では話にならない。狙ったのは三島ブランドを標榜し、地場の土産を扱う企業だった。
長野が街づくりを前提としたプロジェクトを持ちこんだのは、(株)山本食品様。
伊豆の特産品であるワサビの生産・加工・販売を行う、地元でも有力な企業である。
伊豆土産として多くの商品を販売している山本食品様が三嶋大社の前に新店舗をオープンすれば、大社を訪れる観光客にも喜んでもらえる。
店舗を中心に周囲が賑わえば、周辺経済も活発化できるのではないかと思った。